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大内 和希
放射化学, (49), p.3 - 7, 2024/03
本記事では、溶液内反応の基礎研究として、ウランの酸化状態の変化に伴う析出反応の解明とイオン液体-有機混合溶媒中のウラン(IV)塩化物の電気化学的挙動について紹介する。また、微少量試料の定量分析法への応用的研究として、マイクロ化学チップやポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いるアクチノイドの分離手法の開発について紹介する。
富田 涼平; 富田 純平; 鈴木 大輔; 安田 健一郎; 宮本 ユタカ
放射化学, (48), p.1 - 15, 2023/09
二次イオン質量分析法は酸素などのイオンビームを試料に照射することで試料の構成元素から放出されたイオンを質量分析する手法である。この手法は僅かなイオンであっても高感度の計測が可能であり、極微量の元素の同位体比分析に広く用いられる。我々は高分解能を有する二次イオン質量分析装置を用いて、ウランを主とした核物質を含む微小粒子の同位体組成分析技術を開発するとともに、IAEAが原子力施設等の立ち入り査察で採取した試料に含まれるウラン粒子の同位体組成を日本のIAEAネットワーク分析所として分析し、その結果を報告している。本稿では、二次イオン質量分析法の解説と従来型の二次イオン質量分析装置から始まり、現在、主流となっている大型二次イオン質量分析装置が開発されるまでの二次イオン質量分析法を使用した保障措置環境試料中のウラン粒子に対する分析技術の発展について、我々が行った分析技術開発の成果を中心に述べる。
山口 瑛子
放射化学, (48), p.56 - 59, 2023/09
粘土鉱物への吸着反応は地球表層における様々なイオンの環境動態を支配する重要な化学反応であるが、粘土鉱物の組成が多様であり吸着サイトが複数存在するなど、反応が複雑であるために詳細は不明である。本研究では、粘土鉱物への吸着構造について原子レベルで着目し、X線吸収微細構造(XAFS)法や第一原理計算を組み合わせることで詳細な解明を行った。特に、これまで原子レベルでの測定が難しかった、アルカリ土類金属で最も大きいイオン半径を持つラジウムについてもXAFS測定を成功させ、他元素との比較を行うことで新しい知見を得た。
熊谷 友多
放射線化学(インターネット), (115), p.43 - 49, 2023/04
ウラン酸化物の放射線による酸化と水への溶解反応に関する研究は、使用済核燃料の地層処分を背景として進められてきた。またその知見は、原子炉過酷事故で形成される燃料デブリの化学的な安定性を検討する基礎となっている。本稿ではウラン酸化物の放射線よる化学反応について既往研究についても取り上げ、受賞対象となった研究の背景や意義について紹介する。
小荒井 一真
放射化学, (47), p.24 - 27, 2023/03
歯や骨は硬組織と呼ばれ、形成時期のみに組織の基質が沈着し、形成後には組織が入れ替わらないという特徴をもつ。この特徴を活用することで、ウシの歯のSr測定から福島第一原子力発電所(1F)事故による環境中のSrの汚染の変化があったことを明らかにした。この成果などにより申請者が日本放射化学会奨励賞を受賞したことに伴い、本記事ではこれまでの研究成果について解説する。
徳永 紘平
放射化学, (47), p.20 - 23, 2023/03
福島第一原子力発電所事故により放出された放射性核種の挙動の理解とその環境回復は重要な課題であり、この多量で多様な放射性核種が地表・地下環境にてどのように移行・濃集するかを解明することができれば、地球表層の放射性核種を含むあらゆる元素の長期間に渡る物質循環予測研究として、基礎と応用の両面で重要な研究となる。これまで、地球表層における水-堆積物(土壌)、水-鉱物間の元素分配を支配する反応プロセスの理解と、それに基づく元素挙動予測を目指した研究を行ってきた。とくに、放射光X線吸収微細構造(XAFS)法を用いて元素の化学状態を直接決定し、元素挙動に影響する反応を原子・分子レベルで明らかにする研究を進めている。受賞記念講演の特集号として本稿では、これまで進めてきた鉱物への微量元素の分配に関する基礎研究をもとに、長寿命陰イオン放射性核種であるセレン(Se)やヨウ素(I)を効果的に処理処分する手法の開発を行った研究を紹介する。
山口 瑛子
放射化学, (47), p.41 - 42, 2023/03
ラジウム(Ra)は環境化学や核医学などさまざまな分野で重要であるが、安定同位体が存在しないことや希ガスのラドンを生成することなどから取扱が難しく、水和構造ですら十分に解明されていなかった。本研究では、Raの広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定し、Raの水和状態及び粘土鉱物への吸着状態を解明した。さらに環境中ラジウムの挙動を調べるため旧ウラン鉱床周辺のコア試料分析を行ったところ、EXAFSの結果と整合する結果を得た。
熊谷 友多; 日下 良二; 中田 正美; 渡邉 雅之; 秋山 大輔*; 桐島 陽*; 佐藤 修彰*; 佐々木 隆之*
放射線化学(インターネット), (113), p.61 - 64, 2022/04
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故では燃料や被覆管、構造材料等が高温で反応して燃料デブリが形成されたとみられている。1F炉内は注水や地下水の流入で湿潤な環境にあり、放射線による水の分解が継続していると考えられ、これが燃料デブリの化学的な性状に影響する可能性がある。1F燃料デブリの組成や形状については、いまだに十分な情報が得られていないが、炉内や周辺で採取された微粒子の分析結果では、様々な組成が観測されており、事故進展における温度履歴や物質移動の複雑さを反映していると考えられる。1Fサンプルのように複雑組成の混合物については、水の放射線分解が与える影響に関する知見が乏しい。そこで、水の放射線分解の影響として想定すべき燃料デブリの性状変化を明らかにするため、模擬デブリ試料を用いてHO水溶液への浸漬試験を行った。その結果、HOの反応により、模擬デブリ試料からウランが溶出し、過酸化ウラニルの形成が進むことが分かった。またUO相の固溶体形成によるHOに対する安定化が観測された。これらの酸化劣化の過程は、ウラン含有相の反応性や安定性に基づいて説明できることを明らかにした。
山口 瑛子; 永田 光知郎*; 田中 万也; 小林 恵太; 小林 徹; 下条 晃司郎; 谷田 肇; 関口 哲弘; 金田 結依; 松田 晶平; et al.
放射化学, (45), p.28 - 30, 2022/03
ラジウム(Ra)は環境挙動の解明が急務な元素であるが、安定同位体を持たないため分光法の適用が難しく、水和構造でさえも十分に解明されていない。本研究では、Raの広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定し、世界で初めてRaの水和状態及び粘土鉱物への吸着状態を分子レベルで解明した。水和構造について第一原理計算を実施した結果、実験値と計算値は整合した。粘土鉱物において、Raは内圏錯体を形成し、環境中でRaが粘土鉱物に固定されることが示唆された。本稿では特に水和構造の結果について詳細に述べる。
松谷 悠佑; 甲斐 健師; 小川 達彦; 平田 悠歩; 佐藤 達彦
放射線化学(インターネット), (112), p.15 - 20, 2021/11
Particle and Heavy Ion Transport code System (PHITS)は、放射線挙動を模擬する汎用モンテカルロコードであり、原子力分野のみならず工学,医学,理学などの多様な分野で広く利用されている。PHITSは2010年に公開されて以降、機能拡張や利便性向上のために改良が進められてきた。今日までに、電子線,陽電子線,陽子線,炭素線の4種類の荷電粒子を対象として、液相水中における個々の原子との反応を模擬できる飛跡構造解析モードの開発を進めてきた。本モードの開発により、DNAスケールまで分解した微視的な線量付与の計算が可能となった。加えて、飛跡構造解析モードの高精度化へ向けて、任意物質中において多様な粒子タイプに適用可能な汎用的飛跡構造解析モードの開発も進められている。本稿で解説するPHITS飛跡構造解析モードに関するこれまでの開発経緯と将来展望により、PHITSコードの原子物理学,放射線化学,量子生命科学分野への応用がより一層期待される。
宮崎 康典; 佐野 雄一
放射線化学(インターネット), (112), p.27 - 32, 2021/11
使用済燃料再処理で発生する高レベル放射性廃液からマイナーアクチニド(MA: Am, Cm)を分離回収する抽出クロマトグラフィの技術開発を行っている。圧力損失を低減する大粒径吸着担体に対し、MAと希土類元素を相互分離する-ヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド(HONTA)を含浸した吸着材の安全性を評価した。線照射後の熱的特性や吸着性能の変化、並びに水素ガスの発生量から、MAをランタニド(Ln)から分離可能な線量を1MGyに設定するとともに、分離操作において、現在の想定設備以外で冷却ユニットやオフガスユニット等の予防措置は必要ないことを示した。
岡 壽崇; 高橋 温*
放射線化学(インターネット), (110), p.13 - 19, 2020/10
東京電力福島第一原子力発電所によって野生動物が受けた外部被ばくを、電子スピン共鳴(ESR)法を用いてどのように計測するかを解説した。ニホンザルのエナメル質を用いて、炭酸ラジカル強度と吸収線量の関係、いわゆる検量線を作成した。検量線から推定された検出限界は33.5mGyであり、ヒト臼歯を用いた際の検出限界とほぼ同等であった。この検量線を用いて福島県で捕獲された野生ニホンザルの外部被ばく線量を推定したところ、45mGyから300mGyの被ばくをしているサルが見つかった。確立した方法により、ニホンザルだけでなく、アライグマやアカネズミなどの野生動物の外部被ばく線量推定が可能になった。
田中 桐葉*; 武藤 潤*; 長濱 裕幸*; 岡 壽崇
放射線化学(インターネット), (110), p.21 - 30, 2020/10
電子スピン共鳴(ESR)法を用いた断層年代推定法は、断層内物質に含まれる鉱物中の欠陥に捕獲された不対電子数をESR信号強度として検出し、地震前後でのESR信号強度の量的変化に基づいて断層活動年代を推定する手法である。しかし、この手法には、地震時の断層運動によりESR信号強度が0になるゼロセットと呼ばれる現象が前提としてある。これまでに、ESR信号強度のゼロセットを理解・実証するために、天然の断層破砕物の解析や断層運動を模擬した室内実験等が行われている。本稿では、断層運動によるESR信号のゼロセットに関する過去の研究をまとめ、現状と今後の課題について述べる。
日下 良二
放射化学, (41), p.31 - 33, 2020/03
本解説記事では、2019年日本放射化学会奨励賞の受賞に関わった研究を紹介した。振動和周波発生分光法やこれを用いたランタノイドとアクチノイドの溶媒抽出の界面研究について解説した。
小川 達彦; 佐藤 達彦; 八巻 徹也*
放射線化学(インターネット), (108), p.11 - 17, 2019/11
電子線, 線,陽子,重イオンなどの多様な種類の放射線を検知するシンチレータは、付与されたエネルギー量に応じた光を発する。ここで、エネルギー付与密度の高い重イオンのような粒子に対してはクエンチング現象が起こり、エネルギー付与量と比して発光が少なくなることが知られている。さらに、励起した蛍光分子が他の蛍光分子にエネルギーを受け渡すメカニズム(Frster効果やDexter効果)によって、クエンチング現象を説明できることが有機シンチレータに関する過去の研究で示されている。そこで、本研究では、CsI(Tl), NaI(Tl), BGOの3種類のシンチレータにおいて、様々なエネルギー・線種の放射線の照射を受けた際のエネルギー付与を飛跡構造計算コードRITRACKSにより計算し、発光準位に励起する励起子の空間配置や量を予測した。また、各励起子が相互作用によりエネルギーを受け渡す確率を計算し、発光に寄与しない励起子を除いた数を計算した。その結果、相互作用の伝播距離を適切に選択することにより、MeV-GeV範囲の光子・陽子・重イオンによる発光の実験値を正確に再現することができた。特に光子による発光におけるエネルギーに対する非線形性や、低速で原子番号の大きい重イオンの入射の場合に、発光がとりわけ抑制されることなど、重要な特性を再現できたことで、本手法の有効性が示された。
小荒井 一真
放射化学, (40), p.26 - 27, 2019/09
平成30年3月14日16日の3日間、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構において開催された「環境放射能」研究会について和文誌「放射化学」に報告を寄稿する。今回の研究会全体の参加者は195名であり、近年の研究会同様活発な議論が行われたことが伺えた。研究会の最後には4件の発表に対して研究会奨励賞が授与された。受賞者以外にも新規の参加者による興味深い発表が見受けられたため、今後の研究会においてもすぐれた研究発表を行うことが期待される。
小荒井 一真
放射化学, (40), p.34 - 36, 2019/09
学位論文要録を和文誌「放射化学」に寄稿する。学位論文の主な内容である被災動物硬組織へのSr, Csの取り込み、およびSr, Cs, アルカリ土類金属, アルカリ金属の土壌からウシへの移行の内容について要約した。Srは硬組織の形成や代謝に取り込まれたが、Csは形成や代謝に関わらず取り込まれていた。ウシの歯中のSrとCsは福島第一原子力発電所事故後の環境中の汚染を反映していた。以上のことから、硬組織中のSrとCsは重要な環境汚染の指標となることが学位論文で示された。
熊谷 友多
放射線化学(インターネット), (107), p.77 - 78, 2019/04
過酷事故および直接地層処分における核燃料の化学変化を理解する基礎として、二酸化ウランの水溶液中での酸化的溶解反応を調べた。この反応は、使用済核燃料から発される放射線が周囲の水を分解し、過酸化水素などの酸化剤を発生されることから始まる。この酸化剤が二酸化ウランの表面を水溶性の高い6価の状態とすることで、核燃料の母材である二酸化ウランが溶解する。本研究では、この酸化と溶解の反応過程において、過酸化水素の反応が二酸化ウランの表面に反応中間体を形成する可能性を調べた。そのために、反応過程における過酸化水素濃度の減少とウラン濃度の増加を時間分解で測定した。その結果、過酸化水素を高濃度にすることで、二酸化ウラン表面での過酸化水素の分解が活性化されること、一方で反応速度が低下することが分かった。これらの結果は、二酸化ウランの表面の反応性の変化を示しており、反応中間体が表面に蓄積されることを示唆する。
甲斐 健師; 横谷 明徳*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*
放射線化学(インターネット), (106), p.21 - 29, 2018/11
放射線によりDNAの数nm以内に複数の損傷部位が生成されると、細胞死や染色体異常のような生物影響が誘発されると考えられている。本稿では、電子線トラックエンドにおいて生成されるDNA損傷が関与する生物影響の誘発について、われわれが進めたシミュレーション研究の成果を解説する。その結果から、1次電子線照射によりDNA鎖切断を含む複数の塩基損傷が1nm以内に密に生成され、その複雑損傷部位から数nm離れた位置に2次電子により塩基損傷が誘発されることが示された。この孤立塩基損傷部位は損傷除去修復が可能であり、結果として鎖切断に変換されるため、1次電子線により生成された鎖切断と合わせ、最終的にDNAの2本鎖切断が生成され得る。この2本鎖切断末端は塩基損傷を含むために修復効率が低下し、未修復・誤修復により染色体異常のような生物影響が誘発されることが推測された。本シミュレーション研究の成果はDNA損傷の推定のみならず放射線物理化学過程が関与する現象の解明にも有益となる。
島田 亜佐子
放射化学, (38), p.30 - 31, 2018/09
チェコのマリアンスケラズニェで開催された18th Radiochemical Conference (RadChem2018)の概要をまとめた。本会議では、核燃料サイクル,使用済燃料の取扱いにおける放射化学的な問題,アクチノイド化学,分離化学,分析化学,環境化学,放射線化学,核医学,アイソトープ製造の9つのセッションに関する研究報告が口頭発表とポスター発表により行われた。チェコやドイツ,ロシア,フランス,中国,日本など多数の国から約340名ほどの参加があった。